2023.2.7 いまこそ私は原発に反対します

出版社 平凡社
発行日 2012年3月1日
価格  \1800+税
判型・ページ数 B6 496ページ

編者 社団法人 日本ペンクラブ

編者紹介:日本ペンクラブは、国際P.E.N. の日本センターとして、言論・表現・出版の自由の擁護、文学の振興と文化の国際交流、世界平和への寄与を目的とした団体です。

本の紹介:KAZU

日本ペンクラブの会長 浅田次郎(当時)は、「はじめに」の中で述べていることを抜粋してご紹介します。

電気を作り出す発電所が、皮肉なことに地震と津波の被害によって電源を喪失し、制御不能に陥りました。その結果、原子炉はメルトダウンという最悪の状態になり、水素爆発を起こして大量の放射能を私たちの空と海と土の上に撒き散らしたのです。

 国家の存亡にかかわり、人類の未来をも危うくするこの大事故について、政府と東京電力は国民に対し正しい説明をせず、「混乱を避ける」という愚民思想から、希望的観測に基づく過小な発表を続けました。その間に、少なからぬ国民が放射能を浴び、今後どのような形で被害が拡がるかは想像もつきません。

 日本ペンクラブは、こうした事実隠蔽と事実上の報道規制を重く考えて、2011年7月15日に「東日本大震災 原発と原発事故に関する情報の完全公開を求める声明」を発表し、さらに11月16日には「脱原発を考えるペンクラブの集い」を開催しました。またその間にも多くの会員がみずからの職分をもって被災地に通い、今もできうる限りの活動を続けています。

やらなければならないことは、いくらでもあります。しかし私たちは2千人近い会員を擁する文筆家の組織なのですから、それぞれの思うところを筆に托して、一冊の書物にしなければなりません。そこで震災と原発事故から一年を経た今、この本を刊行する運びとなりました。

 私たちの先人は第二次世界大戦中に、思うところを書くことができず、むろん書物にしてひろく訴えることなど許されませんでした。執筆者のみなさんはおそらく、そうした先人の無念に思いを致しながら、存分に筆を(ふる)われたはずです。
 かって核兵器の惨禍を体験してしまった私たちが、またしても原発事故という同根の災厄をひき起こしてしまった事実は、責任の帰趨を論じる以前に、国家としての屈辱であり、歴史に対する背信であると私は考えます。
 この国難を国民こぞっての叡智で乗り越えなければ、たとえ日本という国が世界地図に残っても、その存在価値は(うしな)われてしまいます。

言葉は原発の壁を超えることができるのか? 創作、批評、エッセイによる52人の思いと言葉がぎっしり詰まっています。

第一章 今日のあなたへ、明日のあなたへ

〇佐々木 譲   Rさまへの返事

〇下重暁子    ”生まれてこなかったあなたへ”の手紙

〇谷村志穂    わたしから、あなたへ

〇西本正明    会わずに別れた息子への返信

第二章 紡がれた物語

〇阿刀田 高    笛吹き峠の鈴の音・・・<新々釈遠野物語>として

〇太田治子    ダチョウの父

〇出久根達郎   葉っぱ

〇中島京子    よい未来のための小節

〇中村敦夫    老人と蛙

〇新津きよみ   土の中

〇萩尾望都    福島夢十夜

〇松原喜久子   草もち買います

〇吉岡 忍     老人と牛

第三章 うたう、詠む、訴える

〇アーサー・ビナード  ウラン235

〇天野祐吉    なんのための成長

〇黒田杏子    「福島」から「うつくしま」への?りをこめて

〇三宮麻由子   この世界を「幻」にしないために

〇俵 万智       目の前の命を

   孟母にはあらねど我は二遷して西の果てなるこの島に住む

 原発事故で西へ西へと避難の旅の結果、沖縄に住みついてしまった。

   子を守る小さき虫の親あれば今の私はこれだと思う

 避難を知った人からは「東北を見捨てたんですか」・・否定的な意見も出された。が目の前の小さな命を守ろうという気持ちが、まずは大事ではないだろうか。
原発については、今は怒りを感じている。空気や水の心配をしなくてはならないなんて、そんな心配の上の豊かさなんて、ありえない。子供を安心して育てられる社会。経済とか便利とかいう前に、まずはそれでしょう、と思う。

〇東 直子     剛毅(ごうき)のあなた

〇若松丈太郎   3・11以後の詩作品(抄)

〇和合亮一    震災ノート

第四章 深部へのまなざし

〇雨宮処凛    泣いてるだけじゃダメなんだ・・イラクと東京で掲げる「NO NUKES」

〇磯崎 新      フクシマで、あなたは何もみていない。

〇川村 湊     原発と日本の文学者

〇巽 孝之       バイオパンク・アジア・・・エネルギー文学の未来

〇辻井 喬    反原発の思想的根拠

〇鶴田 静    救おう、ゲンパツの子らを

〇広河隆一   大震災(カタストロフィー)と表現者

〇森 詠     いまこそ脱原発を

〇山田健太   原発「安全神話」の虚構

第五章 語り伝えること

〇浅田次郎   記憶と記録

〇あさのあつこ 罪と罰

  知らないこと、知ろうとしなかったことは罪なのだろうか。
あの原発事故の後、そんな思いが頭を離れない。
  罪なのだ。この期に及んでまだ、おまえはまだ自分の罪から逃れようとするのか。
  原発事故が、そんな卑小な私の顔を現実に向けさせる。

  見ろ。思え。考えろ。
  なぜこんなことが起こったのか。
  これからどうするのか。
  この問題にどう関わって生きていくのか。
  見ろ。思え。考えろ。

  原発が何の罪も犯していない、日々を真面目に懸命に生きてきた若者から家族を奪ったのだ。
  奪われた者たちが、福島には無数にいる。
  わたしたちはそれを知らないだけだ。

〇稲畑汀子   直感の命じるままに

〇落合恵子   制御できないものを、処理できないものを持ってしまった人間、わたしたちよ

〇轡田隆史   小さな勇気と覚悟を

〇玄侑宗久   もう、理屈ではなく

〇小谷真理   狭間の時代に

〇今野 敏    原発いらない人々

〇斎藤 純    ライフスタイルを見直す時

〇澤地久枝   「福島」につながる二人のひと

〇椎名 誠    隠蔽(いんぺい)という名の不実

〇志茂田景樹  双葉町と飯館村をつなぐもの

〇瀬戸内寂聴  原発事故は人災です

   2011年6月から被災地へお見舞いに行った。どこの被災地でも、私の訪れを喜んでくれた。ところが飯館村を訪れたとき、私はいきなり水を浴びたような気がして足がすくんでしまった。集まっている人々の表情が(くら)く、目が冷たく凍りついている。拒否している冷たい視線に射すくめられて、場所慣れした私の足もすくんでしまった。私はいつものような話をせず、「私、あんまが得意なのよ。みんなとても疲れているでしょう。あんまさせて。」といった。出てきた私よりはるかに若い小柄な老女の肩も首も凝り固まっていた。私は彼女をもみながら、冷たい目に向かっていった。「いろいろ、ご苦労しましたね。腹の立つことも不平不満もたまっているでしょう。それを聞かせてくださいな」

一人、また一人と手をあげて、政府のやり方が自分たちの心に少しもよりそっていない。とあれもこれもと理不尽や納得のいかないことを挙げていった。「そうよ」「そうよ」とお互いうなずきあい、私に向かって話つづける。気がつくと、どの顔も、いきいきして、和んだ目になっていた。

「原発事故は人災ですよ、人の手で作った災いは人の手で防げます。私たち力を合わせて、原発いらないを叫びましょう」 同意の拍手が一度にわき起こっていた。

〇高樹のぶ子  今こそ合理的判断を

〇高橋千劔破  「鉄腕アトム」の時代

〇竹下景子   水俣から吹いてくる風

〇津島佑子   「夢の歌」から

〇野坂昭如   立ち止まるのは今

〇森 まゆみ   まぶしくない社会をめざして

〇森村誠一   便(べん)()の岐路

〇山岸涼子   思考を停止してはならない

ページTop
書籍Top